海から生まれたヴィーナスのような女性の写真が素敵な表紙。
なんとご本人! 一度お会いしたことがあるが、美しい方なんだわ。
出合ふたび翳を濃くする桜かな
電線の多きこの街蝶生まる
たましひは鳩のかたちや花は葉に
昨日から今日になる時髪洗ふ
美女には繊細な心の翳りを詠んだ句が似合う。
かと思いきや、さっぱりきっぱり詠まれた句も意外に多くてちょっと驚く。
落雲雀引き合ふ土の重さかな
朝曇河童ミイラの尖りをり
家族とも裸族ともなり冷奴
出目金も和金も同じ人が買ふ
首塚に向き合ふデスク大西日
大夕焼けここは私の要らぬ場所
男前!
ああ、でもそこここにかすかな屈折も含んでいるところが技だ。
麻乃さんはいつもいつもフル回転というのが私の印象。 ご家族のお世話をされ、ご主人の健康を気遣われ、お母様の介護や施設の管理もされつつ俳誌『篠』の執筆、編集、発行。句会や吟行や句会の指導。更には音楽活動まで。
アネモネや姉妹同時に物を云ふ
夫の持つ脈の期限や帰り花
母留守の家に麦茶を作りをく
夏シャツや背中に父の憑いてくる
蛇苺血の濃き順に並びをり 家族を詠んだ句にも難しい言葉は使っていないのに、優しさと屈託が同時に伺えるところが巧い。
口開けし金魚の中の赤き口
麻乃さんはたしか妖怪とかお好きだったと思うが、これはそんな彼女の面目躍如の句ではないだろうか。
もじやもじやの雄蕊で満員虞美人草
虞美人草いじわるさうな花開き
春の菜がドアスコープの一面に
などというくすっと笑える句も好き。
チベット仏教の瑜伽行で「ルン」と呼ばれる概念は、風、呼吸、息吹のような意味合いのものとか。「風通しのより場所を作っていきたい」と願う麻乃さんが起こす新しい風にその端っこででも吹かれてみたいと思う。
小春日の今がどんどん流れをり
われわれが我になる時冬花火
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